4時15分に埼玉県伊奈町の自宅を出て7時20分に山梨県塩山市裂石雲峰寺うえの駐車場に到着した。
通常期であれば上日川峠まで車で行けるのであるが、冬の間はこの上で通行止めになっているためここに車を止めて約2時間弱のアプローチが必要となる。
上日川峠(ロッジ長兵衛)からの大菩薩登山が初級コースであるのに対してここからの登山は中級コースになる。
7時45分、駐車場を出発して5分程で丸川峠との分岐地点に車止めのゲートかある(ここに10台ほどは車を止められる)。
車止めゲートを越えて舗装された車道を数分歩くと上日川峠(ロッジ長兵衛)までの登山道に入る。これから地蔵茶屋(千石茶屋)まで約10分ほど車道を上に見ながら併走することになる。車道に合流して大きなお地蔵様のある地蔵茶屋(千石茶屋)の川を渡り、少し舗装された歩道を歩くがすぐに登山道に入る。ひととき急な登山道を登ることになるが、それから先はなだらかな葉の落ちたブナ、ミズナラ林の明るい山道をひたすら歩く。途中の見晴らしの利く場所から雪をいただいた南アルプス北岳などが見える。また通行止めになっている車道のガードレールが遠くに、時には真近に見える。ただこの車道が見えることが上日川峠がまだまだ遠いことを暗示しており、なだらかな山道の割には駐車場を出てから2時間弱のアプローチは厳しい。
上日川峠のペンション風の「ロッジ長兵衛」に着いたのは9時40分であった。ロッジ長兵衛の前には広い駐車場とキャンプサイトがありトイレもある。トイレの前にタクシーが現れ登山者が降りてきた。そのほかにもここまで大和村側から自動車でやってきている人たちがいた。
塩山市のホームページでは「県道塩山停車場大菩薩嶺線の冬季通行止めのご案内 裂石〜上日川峠 12月15日〜3月31日 嵯峨塩〜上日川峠 1月7日〜3月31日」とあったが、はっきり言ってこの表現は地元の人にはわかっても県外者にはまったくわからない(一緒になった富山県から来たパーティーも同じことを言っていた。)。要するに、正月には塩山市裂石側からは通行止めであるが大和村側からは車で日川峠まで入れるという意味なのである。但し大和村からここまでの道のりはかなり距離があることは覚悟する必要がある。
ロッジ長兵衛を出てなだらかな山道を15分も歩くと「福ちゃん荘」に着く。ここまでは登山道と並行するように舗装された車道もありタクシーでもここまで来ることができる。宿泊者はここに車を止めることができるという。
ここから大菩薩嶺の雷岩に直接アプローチする唐松尾根ルート(約1時間)となだらかな道を大菩薩峠(介山荘)まで行く表登山道(約45分)に分かれる。
表登山道ルートは福ちゃん荘を出てすぐに車道から分かれるが、この登山道は舗装された車道の脇を5分ほど先にある「富士見山荘」まで併走するだけであり特に山道を歩く必要はない。
富士見山荘のテラス越しに見る富士山の絶景に言葉を失う。「なるほど富士見山荘だ!」と納得する。
富士見山荘を出てすぐに沢を渡り勝緑荘の前から登山道になる。ここから大菩薩峠までは約30分ほどであろう。ところどころの日陰に雪が積もっている。勝緑荘を出て大菩薩峠までの中間地点あたりに富士山を一望できるポイントがある。ほとんどの登山者がカメラで富士山の写真を撮っている。峠の直下の道は雪が積もっており、冬山に来たことを実感させてくれる。
大菩薩峠(標高1897m)には「介山荘」という立派な山小屋があり、日の出や夕焼けのほかに甲府盆地の夜景を楽しむことができるという。
この日は快晴で正面に雪がほとんどない明るい新春の日差しを受けたなだらかな大菩薩の稜線が青空を背景にくっきりと見え、眼下に塩山市の象徴「塩の山」、甲府盆地とその奥に雪をいただいた南アルプス、甲斐駒ケ岳が一望できた。
介山荘の前には黒御影石の方位台が置かれて、ここから見える全ての山の名前が書かれている。ただこの場所からは富士山は見ることは出来ない。
これによると正面に見える快晴の青空を背景に並ぶ南アルプスの山並みは南から聖岳(3013m)、赤石岳(3120m)、荒川岳(悪沢岳3141m)、塩見岳(3052m)、農鳥岳(3025.9m)、間ノ岳(3189m)、北岳(3192m)、仙丈ヶ岳(3033m)、甲斐駒ケ岳(2967m)であった。
この峠の脇に東京都水道局の案内板が建てられていた。この辺りが東京都の水源多摩川の源流域であるであることを物語っている。
雪の積もったこの場所で南アルプスを背景に写真を撮り、カメラマンと思われる人と山の話をして、山頂から丸川峠ルートで下山することを勧められ、ピストンをやめて山頂から北に回り丸川峠から裂石に下山するルートをとることに決める。
青空の稜線に向かって親不知頭に向かうとすぐにこの峠を書名としたあまりにも有名な未完の長編小説「大菩薩峠」の作者「中里介山」の五輪塔のような文学碑が建っている。
峠を出発して登り始めると背後に富士山が見えてくる。そしてこの峠のピークである親不知頭に立つとその正面に富士山が聳え立っている。親不知頭を越えるとそこが賽の河原で多くの石が積まれている。非難小屋がありその脇で寒さと風を避けながら多くの登山者が食事をしていた。大菩薩峠(介山荘)から10分ほどである。
これからまたなだらかな稜線を登り始めるがこの辺りから風が強くなり体感温度が急激に下がり、グローブをはずしてデジタルカメラを撮ることがかなり厳しくなる。甲府盆地側からの冷たい風を受けながらも南アルプスと背後の富士山を楽しめる展望のいい稜線を20分ほど登り、最後の岩場を登りきるとそこが神成岩である。ここに標高2000m地点の標識が立っている。これから10分ほど進むと大菩薩嶺の頂上手前の雷岩がある。ここに着いたのは12時10分であった。この脇が林になっており風除けができるためこの林の中で昼食を摂った。
そして12時47分に出発して雪の降り積もった林の中を5分も歩くとほどなく山頂である。山頂はテニスコート一面ほどの広さがあり中央に三等水準点と百名山大菩薩嶺(2057m)の標識が立っているが、見晴らしはまったく利かない。雪の降り積もった山頂で冬山に登ったことを実感しつつ証拠の写真を撮り、午後1時に丸川峠に向かって下山を開始する。
下山道は大菩薩嶺の北面をまくように道が付けられているため積雪と凍結した急な登山道を下ることになる。眺望がほとんど利かないが、それでも初めての雪の登山道を楽しみながら下った。
雪道を1時間ほど下山すると丸川峠の丸川荘に出る。山小屋のご主人が薪割をしておられた。すり鉢の底の様な谷あいにある山小屋の正面に富士山を望むことができる。大菩薩峠でここが絶好のポイントであると勧めてくれた理由がわかる。六月にはツツジが咲き乱れるポイントであるという。
これからひたすら急坂を下ることになる。眺望は利かないが、葉の落ちたブナ林の南向きの斜面は日当たりがよく明るい。また時々木立の間から正面に富士山、右側に金峰山などが見える。ところがこの下り坂半端ではない。一番狭い尾根は巾一メートル程しかなく左右の崖がほとんど垂直に近い場所もあった。とはいえこの急坂は足にかなり負担がかかった。
ルートマップ上では1時間20分ほどと考えていたのであるが実際1時間40分かかってしまった。下山を始めて1時間20分ほどでやっと砂防ダムのある沢沿いの平坦なルートに入ったこれで足の負担は軽くなったが、このままではどうなることかと思った。そして20分ほど歩き出発した車止めゲートのある丸川峠分岐に出て、3時40分、裂石の駐車場に帰ってきた。
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