7月16日 甲武信小屋から雁坂峠
その夜はとても風が強く、テント場の木々が大きな音をたてて、雨粒がテントを叩く音で何度も目が覚めた。雨と風で何度も起こされた為、寝過ごししまい、5時前に目を覚ました。早速テントを撤収して、5時35分に甲武信小屋を雁坂峠に向けて出発した。木賊山の巻き道は木賊山の北側に水平に付けられており、15分ほどで木賊山と雁坂峠行きの分岐点に合流した。破風山まで2.6km、雁坂峠まで5.3kmと書かれていた(甲武信小屋へは0.7km)。
それから破風山への下りは思ったより急な道で途中から正面に西破風山、そして雲の間から富士山も姿を現した。
縦走の途中で富士山が見えることは縦走をとても楽しいものにしてくれる。
下り始めて15分ほどで真っ白な砂と大きな岩が立ち並ぶ賽の河原と呼ばれる場所に出る。晴れた日であれば正面に富士山、雲取山から大菩薩など秩父の山並みが楽しめるのであろう。
賽の河原を後にして、視界の利かない樹林帯をひたすら下ると木賊山と西破風山の鞍部に一面笹原のその名も笹原避難小屋に出る。
激しい雨の中、朝食はこの非難小屋と決めていた。中に入ると男性2人組みのパーティーが二組と夫婦のパーティーが食事をしていた。夫婦のパーティーはこの雨では雁坂峠でお昼を摂ることはできないだろうから、ここで食べて行くという。
ここで一夜を明かした一組のパーティーは昨日、登りで一緒になった方々で何度か言葉を交わした人たちであった。
昨夜の風がとても強く非難小屋の鉄の壁がとても揺れていた事、水場は小屋の約20分の所にあると書かれているが、そこまでの道がはっきりせず、さらに帰りは道がわからず大変であったとのことなどいろんな話をうかがうことができた。
この小屋の正面には富士山が見え、前夜は富士山を登るライトの行列が見えたという。
食事を済ませて小屋を出る頃には雨も少し弱くなっていた。
そして、西破風山への緩やかな登山道を登り始めるが、だんだん斜度が急になり、背後に木賊山が見え、木々の高さが低くなり展望が利くようになると、山頂が近いことが実感できる。西破風山(2318m)山頂は展望の利かない木々の中にあり、ベンチが置かれ、埼玉県の立てた大きな標柱と「山梨100名山」の標柱が立っていた。
ここから東破風山(2260m)までの稜線は比較的なだらかな起伏の少ない道であるが、途中にはゴロゴロした大きな岩のヤセ尾根などもあり、富士山の展望も利く楽しい縦走路である。
この途中の枯れ枝の上に白黒の半纏と尖った冠羽が特徴的なヤマセミが姿を見せたのには驚いた。
東破風山は南に開けているが雲のため展望は得られなかった。
ここから雁坂嶺までの最初の下りはとても急である。2180mの4等三角点までくると、雁坂嶺までは緩やかな登りを楽しむことになる。
途中に真横から見るとスフインクスか猫が2体横を向いているように見える岩場に出る。この岩場は雁坂嶺から来る登山者には分かり難いかも知れない。真後ろから見ると岩は思ったより厚みがなく猫やスフィンクスの特徴は何もないのである。
雁坂嶺(2289m)の山頂も展望は利かない。そこから下り始めるとしばらくして笹原が見え始めると正面に富士山が現れ、雁坂峠へ下っていく。雁坂嶺から雁坂峠までの下りのルートタイムは20分とされていたが、なぜかかなり時間がかかってしまった。
下山の途中で出あった茶髪の息子を連れた男性が「今日は雲海の日だね。」と言っていたが、曇り空と言わず、このように表現されると曇空も楽しめるものだと思えてならなかった。
雁坂峠(2082m)は山梨側は一面の笹原であるが、埼玉県側は樹林帯である。峠にはベンチが置かれ、峠の説明板があり雁坂峠は南アルプスの三伏峠(258m)、北アルブスの針ノ木峠(2541m)と並んで日本三大峠のひとつに数えられていると書かれている。
この峠は古代から人々が行き来しており、武田信玄の時代には軍用道路・甲斐久筋のひとつである。この道は秩父往還と呼ばれ、秩父観音霊場参拝の道として多くの人が行き来し、江戸時代から大正までは秩父大滝村の繭取引所があった塩山に運ぶ重要な道だったと書かれている。
霧がかかり展望が利かない峠をあとにして急な笹原をジグザグに下る。これがなかなか急な坂で、笹原を抜けて樹林帯に入ってからもぬかるんで歩きにくい道がひたすら続く。下山を始めて約1時間で小さな沢を渡り、そこから15分ほどで大きな峠沢に合流した。そこで笹平避難小屋で我々と前後しながら縦走しているメンバーからいただい たオレンジを食べたがそれがとても美味しかった。それから峠沢の右岸を15分ほど下ると沢を渡る。これから左岸を下るが途中にはとても道幅が狭く針金が張られた危険な場所も沢山ある。
そして、視界が開けると眼下に舗装された林道が見える。沓切沢橋を渡るとそれからは舗装された林道で途中で雁坂トンネルの料金所があり約1時間15分で西沢のマス釣り場に着く。
また降り始めた雨の中、ようやく蒟蒻館にたどり着いた。着替えをして、蒟蒻館で昼食をとり、そして美味しいトロ蒟蒻を買って、西沢を後にし、大滝温泉「遊湯館」で温泉に入って登山の疲れをさっぱり流して埼玉に帰った。
西沢渓谷の入り口にある田部重治の碑の「笛吹川を遡る」に奥秩父の山の魅力は深い森林と渓谷美であると書かれているが、まさにそれを実感した、甲武信岳登山であった。
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