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============麹町ウぉーカー(麹町遊歩人)NO65===========

東京はもう春一番が吹いたとニュースが流れました。

編集担当が住んでいる北海道でも札幌雪祭りが、何事もなく無事に閉幕。これから春の雪解けをじっと待つ時期に突入です。

ところで、今年東京には雪が降ったのでしょうか?

気象庁のHPには今年1月に4日間の降雪があったと表示されていましたが・・・。

東京に雪が降るというと、赤穂浪士の討ち入り、桜田門外の変、2・26事件が頭に浮かびます。東京で大きな事変が起きるときは必ず雪が積もっています。偶然ですよね。

さて、昭和11年2月26日の早朝、東京麹町界隈にも雪が積もっていました。

そして午前5時を期して「昭和維新」を掲げ陸軍の若き青年将校たちが決起しました。

この2・26事件、麹町〜永田町を中心に展開します。

今回H氏は、麹町で事件に実際に遭遇した方々から伺ったお話を中心にレポートを書き上げました。

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平成15年10月13日、麹町小学校同窓会主催の「麹町界隈今昔物語(2・26事件)」という催しがあった。大正から昭和の初期に麹町で生まれて育った7名の方々が当時の様子を語り合うものである。その中で私だけが場違いな感じではあったが麹町5丁目の会社名を明らかにして参加させていただいた。

体系的な講演の形式でなく当時小学生だった皆さんが思い出しながら話が進むため、話しが前後し脈絡のない話しも出てくるのであるが、できるだけその日の話の様子を紹介し2・26事件そのものより、当時の麹町界隈の様子を楽しみ願いたいと思い書き上げたものである。(事件の概要は麹町ウぉーカー版として別にまとめてみる。)。

 

話しは、この会の会長で法学者の清瀬信次郎先生の司会で進められた。

2.26事件」はここに集まった方々が小学生だった1936年(昭和11年)2月26日に陸軍の国粋主義の皇道派と呼ばれる青年将校たちが「昭和維新」を旗印に蹶起し首相官邸・警視庁・朝日新聞社などを襲撃。斎藤実内相・高橋是清蔵相・渡辺錠太郎教育総監ら重臣を殺害し、首都の中枢部を4日間に渡って占拠したクーデター事件である。

その日は雪が降っておりかなり積雪があった。子供達にとっては事件の発生により学校が休校になることが嬉しかったという。

麹町警察署に行ったら警察署の前にも兵士が銃剣を付けた小銃を構えて立っており、

中を覗いたら警察官より兵隊が多かった。麹町警察署の前に立っていた兵隊に「反乱軍か?」と聞いたら宇都宮から来た鎮圧軍だと言っていた。赤坂の高橋是清翁の像

警察署には車の上に機関銃をつけた戦車とは異なる目新しい兵器があり兵士に聞いたら「装甲車」と言うものだった。

首相官邸では岡田総理が襲われたが、秘書官が間違って殺され、赤坂の高橋是清、麹町では鈴木貫太郎が襲われた。岡田首相は納戸に隠れており、弔問のドサクサで脱出した。

鈴木貫太郎は麹町区三番町2の侍従長官邸で安藤輝三陸軍大尉ら150名の襲撃を受け、銃弾4発の重傷を負うが、孝子夫人の「もうい幸楽の場所にはホテルニュージャパンがその後にプレデンシャルビルが建ついでしょう。」という一言で安藤大尉が止めを刺さずに一命を取り留め、終戦のときの総理大臣となる。

決起軍は首相官邸、桜田門の警視庁などを占拠して赤坂にあった料亭幸楽と山王ホテルを接収して指揮本部としていた。

2月28日までは比較的警戒が緩やかで民間人が決起軍の本部のある料亭幸楽と山王ホテルに近づくことができ、かなりの差し入れが行なわれていた。

鎮圧軍は飛行機で「兵に告ぐ」というビラを総理官邸の上にまいたが風向きが悪く皇居の堀や麹町方向に降ってきた。事件は4日間続いたが、決起軍が原隊にもどる形で終結した。

これがこの会での2・26事件に関する話の骨子であるが、これに付随する話がまた楽しい。山王ホテルがあった場所に建つ山王パークタワービル

決起軍が占拠していた「山王ホテル」は戦後アメリカ軍が接収して米軍の施設として使用していたが返還運動が起こり現在では「山王パークタワー」ビルになっている。この山王ホテルは当時新宿の伊勢丹にしかなかったアイススケートリンクがあったという。

さらに料亭「幸楽」は後に大火事になったホテルニュージャパンとなった場所にあり、現在は赤坂に聳え立つ「プレデンシャルビル」の場所である。

この「幸楽」はもともと1904年(明治37)年に煙草専売制がとられる前に売られていた天狗煙草の「岩谷商会」のオーナーの鹿児島県川内市出身の「岩谷松平」の別邸だったという。この岩谷松平という人物はかなり奇抜な方で自ら真っ赤な衣装をまとい、自宅や店を赤く塗り、赤尽くしの宣伝隊を走らせ、大いに人々の注目を集めたと伝えられる。この派手な宣伝のポスターを印刷していた部門が現在の「凸版印刷」であるという。

さらに、「幸楽」を占拠し、最後は強硬に抵抗し自決を図った決起軍の中心メンバー安藤輝三大尉の父親は当時慶応義塾中等部の英語の先生であったが事件の後も慶応が民間だったためか教壇に立っておられたという事を、当時慶応義塾普通部に紀尾井町から三田まで通学しておられたYさんが話してくれた。

更にYさんからは『事件が発生した日に「ばあや」が学校まで迎えに来てくれたが、

既に警戒線が敷かれており兵隊に止められたところ、近くにいた人が「Yさん家の子供さんだ」と証言してくれて、紀尾井町の家に戻ることができた。しかしすぐに軍の指示で四ッ谷見附を出て今の四ッ谷駅そばの新道通りあたりに避難させられた。その時に四ッ谷見附の橋のたもとに機関銃が置いてあったのを記憶している。』とお聞きした。

柳瀬先生から、海軍青年将校が起こした昭和7年の首相官邸などが襲撃され、犬養毅首相を射殺した5.15事件のときは、一人の死刑判決もなかったが、2・26事件では決起軍の将校下士官の裁判は反乱が治まっていたにもかかわらず威厳令は一部解除されず非公開、傍聴人なし、控訴することもできない一発勝負の形ばかりの特別軍法会議でおこなわれ、民間人を含めて17名が死刑になった。そして2・26事件によって皇道派は粛清され日中戦争、太平洋戦争へと突入していったと法律学者としてのお話を伺った。

さらに清瀬先生のお父上が東京裁判のときの主任弁護人清瀬一郎氏であったところから麹町ウぉーカー35号で紹介した東京裁判の死刑判決を受けた七名のうちで唯一の文官、広田弘毅に関する話など聞くことが出来た。

その他、58号で紹介の食違見附からFM東京までの麹町大通から2本目の通りが、今上天皇が皇太子時代に赤坂御所から毎週宮城(皇居)に向かわれる「御通り」が行われていたことはこのとき聞いた話である。そしてこの通りの辺りに材木屋が多く「材木横丁」とも呼ばれていた。

さらに59号の「司法研修所跡地」に「行政裁判所」があり子供の頃裁判所の敷地で遊んでいたこと。昭和の初期麹町に「坂川牛乳」といいう牛乳屋があり麹町近辺に多くの牛が飼われていた。

また、麹町界隈は戦前、テーラーがとても多かったという。将校の軍服はオーダーメードで上級軍人はお気に入りのテーラーで軍服を作らせていたというのである

その他、昭和の初期に麹町小学校には子供の強い体を作るために現在の日焼けサロンのような紫外線照射の部屋が保健室にあった事実など聞かせていただいた(麹町ウぉーカーの取材中に聞いたことはあったが裏付けの取れていなかった事であった)。農村が飢餓に苦しみ娘の身売りが行なわれていた昭和の初期に、麹町の小学校には日焼けサロンのような設備があったというのだから驚きである。

 

この会が開催された10月13日は大雨で会場となった麹町出張所の会場が水漏れを起こし、激しい雷雨が起こり国会議事堂にてっぺんに雷が落ち、御影石が欠け落ちた日であった。

後に「2.26事件」について調べてみると国を憂いて蜂起して暗黒裁判で死刑に処せられた純粋な若い将校達とそれに従って後に反乱軍の汚名を着せられて下士官兵達の涙雨だったなと思えてならなかった。

たまだまだ紹介すべき事はあるのであるが、またの機会にまとめて紹介することにする。

最後に、このメルマガでレポートを配信できたのも、貴重な話しを聞かせていただいた麹町小学校同窓会の皆様の協力を頂いたおかげです。

心から感謝します。有難うございました。

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この2・26事件の決起軍に、亡くなった落語家柳家小さん師匠が一兵卒として参加していました。野中大尉の指揮下で警視庁を占領、翌27日夜には、元気の無くなった決起軍の兵隊相手に「子褒め」という落語を一席聴かせたとのことです。

事件そのものは大変な事なのですが、「帝国ホテルがカレーライスを決起軍の食事として用意し、これを食した兵隊によりカレーライスが広まった」「来日するチャップリンも暗殺リストに載っていた」など、歴史逸話が一杯です。

ちなみに、この年に誕生したのは、立川談志[落語家](1.2)、 市原悦子[俳優](1.24)、 長島茂雄(2.20)、 楳図かずお[漫画家](9.3)、 梶原一騎(9.4)、 堀江謙一(9.8)、 北島三郎[歌手](10.4)、 山崎努[俳優](12.2)。

このそうそうたるメンバーを目にすると、昭和11年が間近に感じられます。

編集担当の私は、メルマガで2・26事件を取り上げると決まった後、宮部みゆき作「蒲生邸事件」という小説を読みました。2.26事件を題材にしたSF小説で、面白いですよ。

興味のある方は、文春文庫から出ていますので読んでみてください。

 

2月26日に「2.26事件」を特集した臨時増刊号を、H氏より配信予定です。

H氏のHPもお楽しみください。

http://homer.pro.tok2.com/

 

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(大)


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