名栗湖の手前のある「わさらびの湯」の入り口にある名栗村農林産物加工直売所「やませみ」の前の広い駐車場に止めて、身支度を整え、歩き始める。名栗湖に向かって急な舗装道路を10分も登って歩くと有間ダムに到着する。このダムは石や岩を積み上げて作るいわゆる「ロックフィルダム」である。昭和61年4月にできた県営ダム1号として知られている。
ダムを渡ると登山口にいたる周回道路は崖が崩壊の危険があるとのことでフェンスで閉鎖されている。白谷沢登山口まで有間ダムから約1キロ弱で行ける場所であるが、やむなく名栗湖を一番深部まで回りしなくてはならない。
やむを得ず、妻を残し一人下の駐車場まで車を取りに行く。
車で名栗湖を一回りすると途中にカヌー工房があり、最深部の橋を渡り対岸の周回道路に入り約4キロで白谷沢登山口に着く。(着いてから約1時間ロスしてしまった。)
登山口に「白谷の泉」という水が出ている。ここに「ゴンジリ峠付近で熊が確認されているので注意」という掲示板が掛けられていた。
登り始めるときれいに整備された登山道が始まる。思ったより急な登山道で、左側が沢に落ちた巻き道は思いのほかスリリングであるが明るくてとても清々しい山道である。
すぐに左前方の木々の間から藤懸の滝がある。そして少し歩くと白谷沢峡谷が本格的に始まり、沢を登ることになる。両岸の岸壁が狭った細い谷筋(ゴルジュ)を過ぎるとクサリ場である。クサリ場を登りきると、すぐに白孔雀の滝に出る。この白孔雀の滝は孔雀が羽根を広げたように見える。このほかにも天狗滝のほかにも名も無い滝がたくさん続く。
白孔雀の滝までの約10分間が渓谷の中心部分である。そしてそれから杉林の登山道を20分も登ると林道と交差する。
林道を渡るとそこが水場になっており一休みするには格好の場所である。この水がとても冷たい。
そこから急な登りになり長い木の階段が続く。5分ほど登ると巻き道になり、すぐに見晴らしのできる場所に出る。そして少し下りになり登り返して岩茸石の分岐に出る。これから杉林の尾根道を登ることになる。登り始めてすぐに大きな岩がある。その脇から下山する道が付けられている。岩茸石を出て5分も登るとテーブルのある見晴らし場がある。
ここからゴンジリ峠まで約10分ほどであるが、きれいな杉林の尾根を抜けると途中から長い木の階段がある。この階段はとても登りにくく、階段脇の杉の間を登る脇道がたくさん付けられている。上に行くほど登り難い。そして階段の先に少し開けた場所が見え始めるとそこがゴンジリ峠である。ゴンジリ峠は権次入峠と書く。
ゴンジリ峠で一休みしては平坦な尾根道を数分歩くと今度はなだらかな登りになる。そしてまっすぐな尾根道に山頂まで続くまっすぐな木の階段が始まる。これがとても長いもので山頂まで約300mほど続いている。なかなか厳しい木の階段であるが、脇を歩くより階段の木上をバランスよく歩いたほうが登りやすいようである。
山頂はとても広く、北西から南東にむけて開けており、東京方面からその前に所沢、埼玉方面の町並みが一望できる。
北西には大持山(1294m)と秩父の武甲山(1295m)が見える。真北に三角形の山頂を持つ伊豆ヶ岳(851m)、そして飯能から秩父の山並みが山座同定できる。晴れた日であれば谷川岳なども見えるらしい。
山頂で1時間ほど静かな時間を過ごし下山して、もと来た登山口に下りた。
以前来たときは岩茸石からその石の裏を抜けて杉林の見晴らしが全く利かない尾根を抜けて「わらさびの湯」の下に出るルートをとったが、今回は車をダムまでもってきた関係でピストンすることになった。ただこれが新しい発見をもたらしてくれた。
何よりこの渓谷は登りだけはもったいない。登る目線と異なり下りの目線で見る渓谷はより一層その素晴らしさを見せつけてくれる。大小の滝や両岸の岸壁が狭った細い谷筋(ゴルジュ)、クサリ場、沢の渡渉などスリリングで関東近郊ではなかなか経験できない場所である。
さらに、たまたま下山を御一緒することになった山野草の写真を撮っておられた方がこの渓谷に咲く珍しい花々をいろいろと教えてくれた。
黄色い「タマガワホトトギス(玉川杜鵑)」や小さな紫色の花が咲く「岩タバコ」などこの渓谷は珍しい花々で満ち溢れているようである。
「岩タバコ」は名の通りタバコの葉の形をしており、その中心に紫色の花が星のように見える。この峡谷では毎年7月20日頃から8月15日ごろが見頃だという。
タマガワホトトギスは黄色い花弁に紫色の斑点がある。この玉川は東京の多摩川ではなく京都の玉川であるという。
このような深山の渓谷の滝を背景に咲く黄色いタマガワホトトギスや紫色のイワタバコの花との出会いは、今までこのような貴重な美しい花々を見過ごしてきた私たちの山登りのスタンスを反省させられた出来事であった。
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