戻る  甲府勤番風流日誌(第三巻)(山梨の名物編)

身延町の「お葉つき銀杏」

山梨県の南部、富士川沿いにある身延町は日蓮宗の総本山身延山久遠寺があることで全国的に知られている。山梨に赴任して数週間たって最初に訪れたのがこの身延山久遠寺であった。参拝した帰りみちいたるところに「銀杏」の案内の看板があるのが気になった。

平成12年10月思い立って甲府市から身延町まで歩いて旅することを企てた(約40kmある)。このとき途中の鰍沢町が落語の名人三遊亭円歌の落語「鰍沢」(鰍沢町がこの落語の発祥の地であることは甲府勤番第1篇に紹介している)の舞台であり、この落語に出てくる「アジサイ寺」として知られる「小室山」が身延町の上澤寺の縁起となっている「白犬と毒消し銀杏」の伝承に出てくる寺の一つであることを知った。

そこでその銀杏の見頃の季節に身延町の銀杏を訪ねてみることにした。

まず甲府市を出て鰍沢町から国道52号線を富士川沿いに走り、南アルプスから川流れ下る早川が富士川と合流する新早川橋を渡って最初の信号機を過ぎたすぐ右側にある日蓮宗の「法喜山上澤寺(ほうきざんじょうたくじ)」である。

この境内右脇にある樹高37m、幹周6.8m樹齢推定700年といわれる大きな銀杏は「お葉付き銀杏(オハツキイチョウ)」と呼ばれるもので、葉の上に種子が出来る銀杏の変種で、1891年ここ上沢寺で始めて発見され、国の天然記念物に指定された。それにしても聞きしに勝る巨樹である。

さらにこの銀杏の木は枝がみな下に向って垂れさがっているところから昔から「逆さ銀杏」とも呼ばれている。

この「お葉付き銀杏」は別名「毒消し銀杏」と呼ばれているがこれにはこの寺の縁起と深い関係がある。

この上澤寺は日蓮聖人が初めて身延山へ入山せられた当時、真言宗の寺であった。又、鰍沢に真言宗の小室山があって僧恵朝が威勢を振っていた。小室山の恵朝は、日蓮聖人に法論を挑んだが敗れ、一応、聖人に降伏したが、内心では聖人を怨みひそかに亡き者にしようと考えていた。恵朝はあるとき上澤寺において、住職法喜と謀り、毒入りの萩餅を作って聖人にこれを献上した。聖人は何気なくそばに現れた白い犬にこの餅を与えた。白犬はこれを口にしたが直ちに青いものを吐いて、死んでしまった。恵朝と法喜の両名は、このありさまを見て、聖人の威徳と法華経の利生を悟り、自分の邪心を深く懺悔謝罪し、お許しを得て、改めて聖人の弟子に加えさせて頂き、恵朝は「日伝」の名を授けられ小室山の開祖となり、また法喜は「日受」の名を授けられ上澤寺の開祖となった。小室山妙法寺はアジサイ寺としても知られている。

そこで上澤寺の日受はこの死んだ白い犬が「法華経の行者たる日蓮聖人」を守護するために、諸天善神が白犬に化身して聖人の身代りとなったのであることを悟り、上澤寺の境内に懇ろに葬った。

また日蓮上人は白犬を哀れみ、使っていた銀杏の杖をその塚の上に墓標として挿すと、不思議にもその杖はいつしか根が生え、大樹となったという。

そこからこの銀杏の葉は消毒の秘妙符として尊とばれ、『毒消いちょう』とも称されている。更に不思議なことにこの銀杏の実が、すべて犬の牙の形をしている点でも不思議な銀杏の木であり昭和4年に天然記念物として指定された。

 

次に上澤寺から数百メートルほど身延方面に進んだところにある身延北小学校の裏にある本国寺の山門左脇にある大きな巨木で幹周り5.3m、樹高25m、樹齢700年と伝えられる、ここの銀杏も葉の上に種子が出来るいわゆるお葉つき銀杏で国の天然記念物に指定されている。ここの木はとても勢いがよい銀杏の木である。

その他、身延町には多くの銀杏木があるがもう一本、身延町上八木沢の「お葉つき銀杏」である。JR身延線の波高島駅から富士川沿いに歩いて5分ほどの場所にある。上澤寺や本国寺などとは富士川の対岸の位置関係になる。

ここの銀杏は幹周3.0m、樹高25m、樹齢約200年と他の2本から比べると見劣りする。この銀杏は特に有名な銀杏で海外に知られており、上澤寺の銀杏よある意味有名である。というのはこの銀杏は大変珍しい雄のお葉つき銀杏で、明治29年4月17日、東京帝国大学の遺伝学者藤井健次郎博士により発見され、広く欧米の植物学会に紹介された木で昭和15年7月に国指定の天然記念物として指定された。

山梨県の身延の富士川流域にお葉つき銀杏が集中している原因として、この木の花粉が富士川を渡り、対岸の上澤寺や本国寺等の銀杏と受精し、お葉つき銀杏として成長させているのではないだろうかとも言われており、この木が身延町におけるお葉つき銀杏の存在に多大な影響を与えているのではないかと考えられている。

それにしても全国で7本しかないと言われる国の天然記念物のお葉つき銀杏の内3本が身延町にあるというのだから驚きである。そのほかにも身延町には多くの立派な銀杏があるが、さすが日蓮上人が霊場と定めるだけ地霊があるように思えてならないならない。

2004.5.15日掲載

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