戻る   甲府勤番風流日誌(第三巻)

山梨の花

山梨に住んでみて嬉しいことの一つに四季がはっきりしていることであり、四季折々に一斉に花が咲き乱れることであった。

春になると、日本一の桃の出荷量を誇る一宮町を中心として、桃の花が甲府盆地を桃源郷に変える。中央高速道路の笹子トンネルを抜けて甲府盆地に入ったときに山頂に残雪をいただいた鳳凰三山、南アルプス、甲斐駒ケ岳等を屏風(背景)にして盆地一面のピンクを目のあたりにすると桃源郷とはこのようなものかとうなずきたくなる。

そして勝沼から一宮町、御坂町、八代町にいたる間の御坂山脈の山懐から盆地を下り、山梨市、塩山市や春日井町に至る一面のピンクの絨毯は壮観である。笛吹川フルーツパークの高台から見るのがまたいい。韮崎市の新府城の桃は南アルプスの真っ白な残雪とのコントラストが見事で言葉を失う。

それに山梨の桃は本当に美味しい。9月の初旬に会社の同僚たちと現在の南アルプス市(旧芦安村)でデイキャンプをしたときに春日井町に住む女性社員が実家で作っている桃を持ってきてくれた。その日の朝採ったばかりのとても大きな桃で、水で洗ってかぶりついたら手ごろな硬さとそのみずみずしい甘さに驚いた。

桃は作るのにもとても手間がかかり、鳥や害虫にもとても弱い。そして熟してからは足が速くすぐに傷むため、高価なことが理解できる。

この日、家族を持つ男性社員たちは1個食べたら残りは家族に対するお土産として大事に貰って帰った。桃がとても美味しくて、皆、山梨の桃の素晴らしさに魅入られ、桃を家族に食べさせたくなったようである。このように、山梨の桃の甘さは人をとても優しくするようである。

桃の花と前後して桜が咲く。山梨にも有名なそして見事な桜が多い。

前任地が福島県会津若松市で、日本3大桜の一つ「三春の滝桜」や「会津五桜」をこよなく愛してきた者として、岐阜県根尾村の「薄墨桜」とともに日本3大桜の一つである武川村の「神代桜」を見ることを一番の楽しみとしていた。

北巨摩郡武川村高山地区の日蓮宗の古刹「実相寺」の境内にある神代桜は幹回りが13.5メートル(日本一である)、樹齢2000年の日本最古のエドヒガン桜で、樹木に対する天然記念物指定第1号である。現在では幹が朽ちて幹の部分は屋根で覆われているがそれから横に伸びたえ枝は支柱に支えられてはいるが見事な花を咲かせている。特に桜の時期、実相寺境内に咲く黄色い水仙の花とのコラボレーションは他では見ることができないすばらしい景観である。

この神代桜は山梨の各所にある日本武尊東征伝説のひとつとしてヤマトタケルノミコトが植えたと伝えられており、この木が枯れそうになったとき日蓮上人が祈祷したところ樹勢が回復したとも伝えられる。日蓮上人は山梨の南部身延町に日蓮宗の総本山として身延山久遠寺を創建するのだからつじつまは合うのだが・・。

ところが山梨の桜はそれだけではい。実相寺を後にして、少し山に入いった真原という地区に見事な桜並木があると聞き訪ねてみた。ソメイヨシノが道路の両脇に植えられ一直線に700メートルほどもあり、桜並木は見事な桜のトンネルとなっている。

ここの素晴らしさは桜の並木の長さもさることながら早春の雪を頂いた甲斐駒ケ岳を背景に咲き乱れる桜の見事さである。

次に訪れたのは小渕沢町松向地区のJR中央線沿いにある田んぼに中に一本だけぽつんと立つ「神田の大糸桜(オオイトザクラ)」である。神代桜、真原の桜並木を見て、そのついでに行った時には標高の高い小淵沢ではまだこの桜は咲いておらず、ゴールデンウイーク頃に再度行くことになった。神田の大イト桜と甲斐駒ヶ岳

「大糸桜」は樹齢は約400年、幹周り約8m程もある。幹はまっすぐに伸びておらず太い幹が斜めに伸びそれから大きくて長い枝が縦横に伸びている。それぞれの枝が自らの力では支えきれないと見えて、数十本の太い柱で支えられている。花が咲くとそのピンクの枝垂桜の枝が地面まで伸びている。休みに行った時にはあまりの人の多さで桜をゆっくり愛でる状態ではなかったため、数日後、仕事に出る前に愛車を飛ばして訪ねてみた。甲府市荒川沿いにある社宅を朝4時半頃に出て、甲府昭和インターから中央高速に乗り、小淵沢インターでおり、5時半頃にはこの桜の前に立った。だれもいないかと思ったら同好の士数名が大きなカメラを構えていた。この日は天候を慎重に予測しただけに最高の日和であった。真っ白な雪を頂いた甲斐駒ケ岳と早朝の青空のスカイラインを背景に悠然とピンクの枝を広げる大イト桜が見事であった。その荘厳な光景の前でバナーでお湯を沸かし、コーヒーを入れて一人出社前の時間を楽しんだ。それでも中央高速長坂インターで高速に乗り車を飛ばして8時半に甲府市内の会社に何事もなかったように出社できるのだから山梨の単身赴任はたまらない。

この小淵沢神田の大糸桜はすぐ脇をJR中央線が走っており、車内からもよく見え、時期になると車内アナウンスが流れるといわれている。

また、夜になるとライトアップされて見事であるというが夜は訪ねたことがない。

しだれ桜はその他にも塩山市の中萩原にある慈雲寺、身延山久遠寺の枝垂桜も見事である。


山梨の桜を紹介していてはきりがないのであるが、あと二つは紹介しておきたい。

その一つは甲府市の昇仙峡の奥にある金桜神社の桜である。社殿には数多くの桜があるがその中でも「ウコンのサクラ」とよばれる1本の桜である。ゴールデンウイークごろにさきはじめる黄金色をした桜である。1度しか行ったことがないのだがグッドタイミングに行ったとみえて宮司さんから「今が咲き始めの一番いいときで、満開になると白い桜になる。」ときかされた。
桜の花は本当に縁がないとめぐり合えないものであると実感させられた1本である。

最後に韮崎市の市内から釜無川を渡り武田八幡神社に向かう途中にある「わに塚の桜」である。

この桜はこの田園地帯のあぜ道に1本忽然と植わっている。八ヶ岳を遠望しながらまことに贅沢なロケーションである。

ここは日本武尊の王子の墓すなわち古墳であると伝えられているが、いずれにせよこの地を治めていた古代の豪族の墓であろう。この桜を見ると武田信玄などの武田一族の前の時代にもこの地を拠り所として富士山をそして甲斐駒ケ岳を朝に夕に見上げそしてあがめた先人達がいたことの証と思えてならない。

それにしても忽然と咲く「一本桜」は桜並木の桜と異なる素晴らしさ、感動がある。

山梨は山国、それゆえに低地と高山で桜の咲く時期が異なり長い間、桜を楽しむことができる。

 

山梨は、甲府盆地の標高が約約260m、河口湖が約700m、山中湖が約900m、清里は約1000m程のほどあり、同じ県内でも花の咲き始める時期が異なるため花の季節が長く楽しめるのが一番の特徴である。

その他、甲府市の不老園の「梅」、甘利山や乙女高原の「つつじ」、玉穂町の「レンゲ」、櫛形山の「アヤメ」、増穂町妙法寺の「アジサイ」、明野村のフラワーセンターの「ひまわり」、芦川村の「すずらん」、河口湖北岸大石の「ラベンダー」、山中湖村の「花の都公園」の花々など山梨の花の名所を楽しんでいただきたい。

2004.5.15掲載

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